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大規模地震発生直後の航空レーザ測量(LiDAR計測)の迅速実施に向けた提言

2024年03月29日

右揃えの例

令和6年3月29日

一般社団法人 日本活断層学会


中央揃えの例  

大規模地震発生直後の航空レーザ測量(LiDAR計測)の迅速実施に向けた提言


作成の背景
 大規模地震発生直後の情報把握は容易ではなく、原因究明や災害対策に遅れが生じる。平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震、平成28年(2016年)熊本地震、令和6年(2024年)能登半島地震などの大地震後に、航空写真や衛星データが撮影され、現地の被害状況把握等に役立てられつつあるが、空間解像度の制約等から、被害の詳細かつ迅速な把握には至っていない。
 こうした中で2000年代以降に航空レーザ測量(airborne LiDAR計測;以下「LiDAR計測」という。付図1参照)の技術が長足の進歩を遂げ、様々な災害現場に適用されはじめている。LiDAR計測とは、上空からレーザを照査することにより地表の測量を行う技術であり、地表の状態の詳細な立体的把握に適している。
 日本活断層学会は、マグニチュード(M)7を超える大地震発生直後にはLiDAR計測が実施され、被災状況を確認するとともに、地震前のデータと比較して地表の状況がどのように変化したかが迅速に把握できるよう、その実施体制を構築する必要性を提言する。

現状及び問題点
 令和6年(2024年)能登半島地震では、大規模災害時の現象把握の困難さが露呈した。通信網が破断し、津波や地形変化、家屋倒壊や斜面・地盤崩壊による道路網の寸断は現地調査を困難にした。その結果、対策本部における情報収集が遅れ、人命救助の有効戦略や、復旧計画の立案に支障をきたしかねない状況が生まれた。こうした中、国土交通省国土地理院は、災害直後から航空写真撮影を実施し、迅速に公開することで災害対策の有効性を高めた。また、地震から一ヶ月を経て、新たな予算が確保され、LiDAR計測による地形測量の実施も計画されている。しかし、地震後に積雪期を迎えたこともあり、その実施までにはさらに数ヶ月を待たなければならない。
 LiDAR計測データは、同時に撮影する航空写真と組み合わせた3D画像を作成することで、地表の立体的な様子を容易に確認することができる。また、地震前のデータと比較することで、地震に伴う地表の形状変化を抽出して、それらの位置・範囲・規模を定量的に把握することができるため、災害対応において極めて有効性が高い。しかし、現状においては地震後の迅速な計測は限定的であり、比較可能な地震前の計測データがない地域も多いため、地震現象の解明のみならず、災害対応への活用は十分ではない。

 以上を踏まえ、一般社団法人 日本活断層学会として、以下のとおり提言する。


提 言


1. 航空レーザ測量により断層活動に伴う地表変動を迅速に把握可能にする
 能登半島地震や熊本地震のようなM7を超える直下型地震時には、複雑な断層活動により地震断層等の地変や地盤の隆起沈降が生じて被害が広域化するが、そのような被害把握に必要な地表変動の迅速な解明は十分ではなく、課題となっている。そのため、地震直後の空中写真撮影と併せてLiDAR計測を実施することで、地震前後の変化を迅速かつ広域的に把握できるようにすべきである(事例は付図2参照)。これは本震後の地震の継続による二次災害の防止や、復旧・復興計画の立案にも有効である。民間航測会社の自主計測データの事後購入やLiDAR計測のための予備費確保等の仕組みの導入も検討されたい。

2. 地震に伴う地盤災害を迅速に把握できるようにする
 大地震時には広域的に地すべりや斜面崩壊が多発し、救助・救援活動に支障をきたすため、居住地への影響、交通網寸断箇所の特定を迅速に行うとともに、後続する2次災害を回避する必要がある。地震前後のLiDAR計測データから斜面崩壊地点及び隣接する影響範囲等を把握するとともに、移動土砂量を迅速に算出することにより、復旧・復興計画の立案に有効な情報を提供することができるようになる(事例は付図3、4参照)。このような対策に活かすためのデータ提供・共有の仕組みの構築が重要である。

3. 救助・救援を支援するため建物被害を迅速に把握できるようにする
 LiDAR計測による地震前後の高解像度のデジタル表層モデル(DSM)(注1)を比較することにより、損傷を受けた建築物の分布と損傷程度の概略を迅速に把握することができる(国立研究開発法人建築研究所、2023:付図5)(注2)。市街地を含め、広範な被害状況を災害対応関連機関が共有することにより、災害対策の議論を円滑に行えるようにすべきである。

4. 「航空レーザ測量データ重点整備地域」を設定する
 地震前後の比較を可能にするためには、地震前に適切なスペック(注3)で定期的なLiDAR計測(注4)を実施しておく必要がある。長大な活断層沿いや大規模な災害発生の可能性が高い地域を重点整備地域に指定し、計画的なデータ整備を行う必要がある。

5. 迅速な解析を行うための技術的課題の解消を進める
 LiDAR計測データを用いた詳細な差分解析の成果図を得るのにかかる作業時間は、約30 km2あたり1日程度であり、既存データの計測諸元の確認、使用許可申請、データ転送などを含めるとさらに長くなる。事前協議により計測データのオープンデータ化や解析手法の共有を進め、解析の迅速化を図る必要がある。

6. 有効な実施・連携体制を構築する
 国や地方公共団体等の関係機関によるLiDAR計測や差分解析等を円滑に進めるため、必要に応じて航測会社、関連学協会、関係団体等との連携を深め、災害時に協働できる体制を構築すべきである。

注1:建物や樹木の高さを含む地表の高さデータ。
注2:国立研究開発法人建築研究所(2023):航空レーザを用いた崩壊建築物の分布把握に資する計測および評価手法ガイドライン案
注3:適切なスペックとは、50cmDEMを作成するのに十分な計測密度を有すること。
注4:定期的計測とは、地震前後の比較が実現できるようにするため、概ね数年に一度程度。

※付図はPDF版の提言をご参照ください。

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